京野アートクリニック スタッフブログ

仙台と高輪にある不妊治療専門クリニック「京野アートクリニック」スタッフブログです。一般不妊治療では妊娠が難しい方のために、人工授精、男性不妊治療、体外受精や精巣内精子を使った顕微授精等、高度生殖補助医療の専門クリニックです。

2009年07月

男性不妊外来がスタートして2年が経過しました。皆様のサポートもあり、2009年3月末で男性新患数は2215名となりました。前回のつぶやきでは男性不妊症は不妊カップルの50%に存在するといわれつつ、治療にくるのはいつも女性ばかりで男性は精子の提供ばかりとつぶやきました。(詳しくは前回の小生のつぶやきをご覧下さい。)

しかし最近ではかなり様相が変わってきました。男性から自分は大丈夫かと心配されて受診されてくる方が増えてきました。また積極的に治療を希望される方も増えてきました。昨年は東京の恵比寿に男性不妊専門クリニックが日本で初めて開院し、テレビ番組で紹介されました。男性不妊は他人ごとではないという認識が少しずつ浸透しているようです。

男性不妊の有無は精液検査のみでは判断できません。最もまずいのは1回の精液検査結果で異常なし或はまあまあですと言われて奥様のみ延々と排卵日にタイミングを合わせるために通院されているケースです。精液検査は変動があることから代表値とは限らず1回の検査で判断はできません。また精液検査は精子の集団の成績をみているだけで、妊娠を成立させうる高品質の精子の有無はわからないのです。

例えれば小学校の生徒さんをグラウンドで走らせてみて半分以上が運動能力ありと判断されてもそのなかにフルマラソンを走破できる生徒さんがいなければ自然妊娠されませんし、ハーフマラソンを走破できる生徒さんがいなければ人工授精でも妊娠に至らないのです。この高品質の精子の有無は体外受精の成績にも影響しうると考えられていますが、精液検査のみで異常なしという結果説明のために男性側の治療機会が損なわれているケースもあります。

そもそも男性不妊などと診断されることは男性にとっては不本意で面子にもかかわりかねないので、異常なしと診断されることを男性諸氏は期待されて外来受診されています。妊娠出産は女性が主役です。しかしそれを支えるのは男性諸氏です。実は正常男性と不妊男性の線引きは意外と難しいことが少なくありません。男性といえども加齢の影響は避けられず、さらに喫煙、肥満、感染症、精索静脈瘤、ホルモン異常、その他生活習慣、職業因子や環境因子などにより妊娠させる力が低下している可能性があります。例えば2人目の妊娠がしにくい場合、自然妊娠の実績があるため男性側には問題ないと考えられる方が多いのですが、続発性不妊の原因の80%が男性側で精索静脈瘤であるとの報告もあります。

男性不妊治療には先に述べたような精索静脈瘤の手術、ホルモン治療、漢方療法、抗酸化療法、生活指導などを使い分けして進めます。これらの治療の有効性についての実証も進んでいます。女性の不妊治療との大きな違いは男性の治療には比較的長期間を有する事です。精子形成はヒトでは75日を必要とするため、治療の効果を得るためには最低3ヶ月以上が必要です。しかし女性の不妊治療と違って排卵周期がないので、月1回程度の通院で十分治療を継続できます。このような女性側と男性側の治療の性質の違いのために、婦人科では現在の精液所見を参考に次の排卵周期での妊娠を目標とするのに対し、泌尿器科では男性因子の改善を目指して女性側の治療の負担の軽減を目指します。検査においても女性側は痛みや精神的に負担の大きい検査が多いのに対して男性側は痛みを伴う検査は少ないのが特徴です。しかしタイミング法(排卵日に夫婦生活を指示される治療法)や人工授精や体外受精などで精子の提供を指示されることは男性にとっては精神的な苦痛を伴うこともあり、やはり男性の治療やケアに精通している泌尿器科の役割は重要です。

不妊治療の目的は妊娠の成立であり、不妊原因を特定して責任の所在を明らかにすることではありません。しかし不妊原因が特定されないことによって苦しんでおられる方も多くいらっしゃいます。そのあたりの患者さんの気持ちを汲み取りつつ有効な診療をしていくにはやはり考え方や育った土壌が異なるとはいえ産婦人科と泌尿器科の連携が重要となってくるのです。

だいぶ長くつぶやきましたのでこの辺で今回は終わりにして、次回は、(たけしの本当は恐い家庭の医学ではありませんが) 本当はちょっと恐い男性不妊症の話をつぶやきたいと思います。長い間おつきあいいただき大変ありがとうございました。

泌尿器科 菅藤哲


婦人科の土信田です。

当院では、お子さんが欲しいとのことで患者さんが受診されると、最初の1ヶ月で、ホルモン検査、子宮卵管造影、ヒューナー検査、排卵確認、精液検査など一通りの検査をすませてしまいます。その後、諸検査で特に異常がない場合は、(不妊期間や年齢などにもよりますが、多くの場合は)まずタイミング法から治療が始まります。今日は、その「タイミング法」について書いてみたいと思います。

タイミング指導というのは、自然なようでいて自然ではありません。

確かに、妊娠の仕組みそのものは自然なのですが、もともと性生活というのは、女性が排卵日を男性に指示して行うようなものではなく、夫婦関係という点では不自然極まりない妊娠方法だと思うのです。

治療上ではあまり重要視されませんが、男性にとっては、この「タイミング指導」はストレスとなることがも少なくありません。排卵日付近になると夕食にはスタミナ料理が出され、あるいは、ドリンク剤などを用意されて「あなたがんばって」などと励まされるということが積み重なってきたりすると、なんだか種馬になったような気分で、最初はよくても、徐々にプレッシャーが大きくなることが多く、そうなると徐々に夫婦関係はギクシャクするようになってきます。

一方、妻は、なかなか妊娠できない焦りから、「排卵日ドンピシャリにタイミングを合わせなければならないのではないか」という強迫観念にかられ、毎日排卵検査薬を使ってみたり、夫が仕事で排卵日に帰りが遅いと、「仕事と子供とどっちが大事なの」などと言ってしまったり、そこまで言わないまでも、排卵日に夫が帰宅できないと「大切なチャンスを逃してしまった」と嘆くようになったりします。

そうなると男性は完全に萎縮してしまい、妻ががんばればがんばるほど男性は逃げ腰となり、排卵日付近になっても、「忙しい」「疲れた」などと、徐々に不妊治療に非協力的になってきたりします。

この状態を「排卵日帰宅恐怖症」といいます。ご夫婦関係は、ご夫婦の数だけスタイルがありますが、似たようなことが身に覚えがあるご夫婦も多いことでしょう。

「旦那はアタシの気持ちを分かってくれない」と嘆く奥様方、男心も意外と複雑なのです。不妊治療においては、女性の治療に、あるいは女性の排卵に男性が協力する、というのではなく、2人の子供を作るために、2人で協力し合う、というお気持ちを、どうかお忘れなく。


閑話休題。

この「タイミング法」「タイミング指導」という言葉は実によくないと思います。なぜかと言うと、「不妊専門クリニックに行って検査で異常がなかったので、タイミング法から始めた」というと、いかにも、『体の異常はどこにもなく、きっと夫婦生活のタイミングがずれていて今まで妊娠しなかったんだろう』、というような印象を持ってしまうからです。

しかし、不妊期間が2年以上の場合、何十回とあった排卵のチャンスに対して、ひたすらタイミングがズレ続けていたという可能性はどれだけあるでしょうか。

精子は女性の体の中で2~3日は生きていますし、卵子も排卵後24時間くらいは受精の可能性がありますから、それほど厳密にドンピシャリ排卵日に性生活を持たなくても十分妊娠可能で、排卵日の数日前から、2~3日おきに3回程度、性生活を持てば十分毎月タイミングは合うわけです。このように考えると、何年ものの間、タイミングがズレ続けていたという可能性は、おそらくほとんどないでしょう。

実際、不妊治療で生まれるお子さんが年間3~4万人であるのに対して、望まぬ妊娠による人工妊娠中絶が年間30~40万件あることからも、人間がいかに妊娠しやすい動物であるかということが分かります。不妊症でない男女が排卵日付近で性生活を持つと、20~30%程度妊娠すると言われています。しかし、不妊期間が2年以上のカップルが排卵日付近でタイミングを合わせても、妊娠する可能性は1ヶ月あたり2~3%程度しかありません。つまり、不妊期間が長い場合は、たとえタイミングがきちんと合っていたとしても、不妊症でないカップルの10分の1しか妊娠の可能性がないわけですから、不妊期間が長いカップルには、(検査で原因は判明するかどうかにかかわらず)必ず何か原因があると考えるのが自然なのです。

検査で異常が見つかると、患者さんはたいてい暗い顔をされます。また、検査結果が異常なしであれば患者さんは「よかった」と喜びます。しかし、不妊期間が長いカップルには、検査で分かるかどうかにかかわらず、必ず何か原因があると考えざるを得ないのですから、むしろ異常は見つかったほうがよい、とすら言えるかもしれません。

通常の検査で分かる不妊原因は、全原因の半数程度と言われています。男性因子(精液)、卵巣機能、卵管、子宮(筋腫やポリープ)など検査で分かる原因は多種多様です。一方、検査では分からないが不妊原因の大きな割合を占めていると考えられているものは、卵子が卵管に捕捉されない(ピックアップ障害)、卵子と精子が出会っても受精しない(受精障害)、受精卵の質(卵巣年齢など)などが考えられています。

つまり、一通りの検査で異常がなかった方の真の原因は、ピックアップ障害、受精障害、受精卵の質のいずれかである可能性が高い、ということになるのです。

それでも、奥様が30代前半までの方で、なおかつ不妊期間が1年程度の場合は、半年間程度は自然にタイミングを合わせていただくことも多いですが、不妊期間が2年以上で原因不明の場合は、通常の検査では分からない範囲(卵子の卵管へのピックアップ障害、受精障害、卵子や精子の質)のどれかが真の原因である可能性が高いため、ただタイミング指導をしただけで妊娠される可能性は少なく、特に年齢が35歳以上の場合は、早め、早めの治療計画を立てることが必要となります。

もちろん、ステップアップを急げばよいというものではありませんが、皆さんがほとんど重要視されない、「不妊期間」が、どれほど重要であるか、お分かりいただければと思います。

実際どのように治療を進めていくかは、患者さんによっても異なります。当院では、常に最適と思われる治療方針をご提案しますが、何かご不明な点は、いつでもご相談ください。

1日も早い妊娠が一番の心のケアとなります。その日を信じて、いっしょにがんばりましょう。

婦人科 土信田雅一


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