2007年5月より男性不妊症外来がスタートしました。男性不妊症は不妊カップルの50%に存在すると当院のホームページでも紹介されておりますが、本当なのでしょうか?そう言われても治療を受けているのはいつも大体女性ばかりです。男性はいつも精液の提供を言いつけられるのみです。先日米国での学会のついでに訪問した友人宅の白人女性は"私に言わせてもらえば不妊症の原因は100%男性よ!女性は無実よ!?"と断言されておりました。

デンマークのスキャケベック先生(男性不妊症では有名な大先生)が1992年に男性の精子はこの50年で半減したという報告をして世界中を驚かせました。この問題は日本でも検証されておりますが、男性の精子は減ってしまったのでしょうか?発展途上国の多くは人口増加で困っているのに先進国の男性のみ精子は減少しているのでしょうか?スキャケベック先生は環境ホルモン(内分泌撹乱物質)への暴露が精子の現象の原因ではないかと唱えております。

環境ホルモンは日本でもかつてブレイクしたことばで、その後厚労省が中心となって検証した結果、成人にとっては問題となるレベルではないと結論しました。しかし胎児への影響の有無については調査されておりません。性腺(卵巣や精巣)の発生を含め、多くの器官は妊娠初期に形成されますが、この時期は成人にとって問題にならないレベルでも影響がでる可能性はあります。

昨今の報告によると憂慮すべきは精子の減少のみではなく、尿道下裂という尿の出口の先天奇形や精巣癌も増加してきているそうで、原因として環境ホルモンの関与の可能性が疑われております。精巣癌は20?40代に好発する悪性腫瘍ですが、ヨーロッパと北米で独立に行われた調査結果で、精巣癌の患者さんの生まれた年で人口あたりの発生頻度をプロットしてグラフを作ると、世界恐慌から第2次世界大戦まで減り続けているのに、終戦後は反転し現在に至るまで上昇を続けているらしいのです。これは胎児期の環境がその数十年後の癌の発生に関与しうることを示しています。

環境ホルモンとは工業、農業などの産業によって合成される化学物質で、プラスチックの原料であるビスフェノールAやダイオキシン、PCB、DDTなどの他にも潜在的に多くの物質があると疑われております。世界恐慌時にこれらの物質による環境の汚染が減少し、高度成長期に汚染が増加してきていると考えれば、先に挙げたデータの解釈は可能です。とすれば消費に依存した経済からの脱却、ひとりひとりの利己的な生活からの脱却による環境の改善がなければ先進国の人口はこのまま減少を続けるかもしれません。しかしむしろ現在中国、インドなどアジア諸国が世界の工場として産業、経済が急成長してきており、とするとこれらの国々でいずれ人口増加が反転する可能性があるとも考えられます。

ところで妊娠するとつわりが生じることが一般的ですが、つわりは何のために生じるのでしょうか?この言い方ですとつわりは合目的な現象のようですが、もしかしたら妊娠初期に胎児への外来性物質による不用な暴露を減らす目的があるのかもしれません。人間以外の種でつわりがあるか定かではなく、下等動物に比較して生殖能力が低下した高等動物が獲得した子孫の防御機構と想像することも可能です。なぜならば環境ホルモンのみならず自然界にはホルモン類似物質はいくらでも含まれているからです。例えばザクロには女性ホルモンが含まれており古い時代には避妊薬として用いられていたそうですし、豆に含まれているイソフラボンは女性ホルモン類似作用があり、豆を食べる日本人には前立腺癌が少ないとも言われております。外国でクローバーの牧場に羊の群れを投入したところ、クローバーを食べた羊の雄がクローバーに含まれる女性ホルモン類似物質により不妊症になり、クローバーが全滅を免れたという実話もあります。

さてさて、それでは男性不妊症は定めであり治らないのか??ご安心ください。そのために臨床医、専門医は日々奮闘しております。すでに大分つぶやきましたので、次回のつぶやきの機会でどのように奮闘しているか、産婦人科の先生方にお叱りを受けない程度にご紹介したいと思います。最後までおつきあい頂き、大変ありがとうございました。

泌尿器科医 菅藤